城山キリスト教会夕拝説教
二〇二二年七月二四日            豊村臨太郎牧師
聖書人物シリーズ6「ノア」
創世記六章五節〜九章一七節
 
 聖書人物シリーズの第6回目、今日は「ノア」を紹介します。「ノアの箱舟」で有名ですね。ノアについては、創世記6章から9章にかけて記されていますが、ノアが生きた時代について、どう記されているかというと、6章5節にはこのように書かれています。
 
「主は、地上に人の悪が増大し、その心に計ることがみな、いつも悪いことだけに傾くのをご覧になった」(創世記6章5節
 6章11節には、「地は、神の前に堕落し、地は、暴虐で満ちていた」とあります。
 
 創世記の最初を思い出してください。1章31節で、「神はお造りになったすべてのものを見られた。見よ。それは非常に良かった」と言われました。神様は愛をもってこの世界をお造りになり、神様の目には全てが「非常によかった」のです。そして、人は、神様と共に生き、神様に応答しながら、愛の中に生きていく存在として造られました。
 ところが、人は悪魔に誘惑されて、自分が神のようになってすべてを支配したいという欲望に引かれてしまいました。(創世記3章)神様との親しい関係を自分から破壊してしまったのです。「神様なんて必要ない」と自分の人生から神様を追い出し、自分勝手な生き方をするようになっていったのです。
 聖書は、このように神様に背き、神様に背を向けた状態を「罪」と呼んでいます。「罪」という言葉には「的外れ」という意味があります。まるで、弓矢が手元で少しでもずれたなら、大きく的を外してしまうように、人は本来のあるべき状態から「ずれ」てしまっているのです。
 私は中学高校と部活でずっとバスケットボールをしていました。入部したての中学一年生の頃、練習中に腰を痛めてしまいました。その時、すぐに休めばよかったのですが、「みんなに遅れをとりたくない」と、無理をしてそのまま続けたのです。それが原因となって、その後、いろんな箇所を怪我するようになりました。体の中心である腰の骨がずれてしまったことで、いろんな不具合がでるようになったのです。
 聖書でいう「罪」、それは人が神様からずれた状態に陥ってしまったことです。そして、ノアが生きた時代、その「ずれ」は、もはや修復出来ないほど大きなものとなり、地を満たすほどになってしまっていたというのです。 
 
1 ノアの箱船造り
 
 そのような時代に「ノア」は登場します。6章9節には、彼についてこう書かれています。
「ノアは、正しい人であって、その時代にあっても、全き人であった。ノアは神とともに歩んだ」(創6・9)
 私たちはこのような箇所を読むと、「ノアは『正しい人』で、『全き人』だったのか、自分とは関係ないな」と思ってしまいやすいですね。でも、これは「ノア」は欠点がひとつも無い完璧な人だったという意味ではありません。ここでいわれている「正しい人」「全き人」というは、「神様に信頼して歩んでいた人」ということです。
 前回紹介したエノク、セツ、アベルのように、自分の限界や弱さを認め、そんな自分を愛し支えてださる神様に信頼し、神様を礼拝しながら生きる人のことです。ノアは、自分が神様に寄り頼まなければ生きていけないと感じていたのだと思います。また、神様を無視して暴虐の中に生きている人々の姿、崩壊に向かいつつある世界に危険性を感じていたのかもしれません。
 そして、神様は、そんなノアに重大な命令をお与えになりました。
 「すべての肉なるものの終わりが、わたしの前に来ている。地は、彼らのゆえに、暴虐で満ちているからだ。それで今わたしは、彼らを地とともに滅ぼそうとしている。あなたは自分のために、ゴフェルの木の箱舟を造りなさい。」(創世記6章13節14節)
 箱舟を造ってそれに乗れば、ノアと家族は滅びから救われると言われたのです。
 そして、ノアは神様にしたがって箱舟を造りはじめるのですが、その上で彼が直面したことがいくつかあったのではないかと想像することができます。
 
 @自分の能力の問題
 
 おそらくノアは船を造る専門的な技術など持っていなかったと思います。
 「神様、船を造れといいますが、いったいどうしたらいいのですか?」
 しかし、神様はそんなノアにきめ細やかな指示をだされるのです。箱舟の材料、構造や寸法、防水加工などについて細かく教えてくださいました。「大丈夫だ。わたしがあなたのなすべきことを教える。その通りにおこないなさい。」神様のそんな声が聞こえてきそうですね。ノアは神様の指示の通り従いました。箱舟の大きさは、長さ約百四十メートル、幅約二十三メートル、高さ約十四メートルです。この長さ、幅、高さの比率は、荷物をたくさん積むことを目的としている船としては、理想的なバランスだそうです。まるでタンカーのようです。この船は、前に進むのが目的ではなく、安定して浮いていることが目的ですから、形は普通の舟のような舳先(へさき)がとがった形ではなく、長方形でまさに箱のような形だったかもしれません。内部は三階建てでした。こうして、ノアは、今まで経験したことのない箱舟の建造に取り組んでいきます。でも、次の大きな課題もありました。それは家族の理解です。
 
 A家族の理解
 
 実際に箱舟を造ることも大変な作業ですが、ノアにとっては、家族が同じ思いで行動していくことができるように、家族のみんなを支えていくということも大切な仕事だったのです。身内というのは厳しいですから、家族の理解を得るのはなかなか大変ですね。もし自分がノアの家族、妻、または息子だったらどうでしょう。「お父さんは、神様の命令だっていうけど、勝手に思いこんでるだけじゃないですか。」「大洪水が起こるなんて、どうしてわかるんですか。」「そんな大きな船を造っても無駄でしょう」などと、ノアに対して言ったかもしれません。ですから、ノアは、熱心に家族に神様の言葉を伝え、この暴虐の時代の中で、神様を信頼して生きることの大切さを分かち合っていたはずです。
 ヘブル11章7節には、こう書かれています。「信仰によって、ノアは、まだ見ていない事がらについて神から警告を受けたとき、恐れかしこんで、その家族の救いのために箱舟を造り、その箱舟によって、世の罪を定め、信仰による義を相続する者となりました。」
 ノアは、愛する家族の救いのために何としても箱舟を造ることに専念したのです。そこには、家族の為に祈り、家族に神様の思いを伝え、理解を得ることも含まれていました。
 
 B人々の無理解と嘲笑
 
 では、まわりの人々の反応はどうだったでしょうか。「へっ、神様がこの地を滅ぼすだって。馬鹿げてる。この場所に大洪水が起こるはずがない。こんな大きな船を造ってどうするんだ。頭がおかしくなったんじゃないのか。」とノアを笑いものにしたことでしょう。この時のノアは、けして世間から隔離されて生きていたわけではなかったと思います。私たちと同じように、ご近所さんもいたでしょうし、友人もいたと思います。でも、理解されなかった。これも辛いですね。しかし、ノアは、箱船を作り続けました。おそらく、造るだけでなく、人々に向かって神様の警告を伝え、自らの救いを考えるようにと訴え続けたでしょう。しかし、残念ながら人々は、ノアの警告にまったく聞く耳を持ちませんでした。そして、そのようにして長い年月が経っていったわけです。
 
2 大洪水
 
 さあ、遂に箱舟が完成しました。神様は、ノアに、「あなたとあなたの全家族とは、箱舟に入りなさい。」(創7・1)とおっしゃいました。そして、動物たちや食糧を集めて箱船に乗せるように命令なさいました。箱船の中は、まるで動物園のような状態だったことでしょう。そして、最後にノアとその家族が船に乗り込みました。ノア夫妻と三人の息子たちとその妻ですから、八人ですね。そして、七日目に遂に大雨が降り出したのです。創世記7章16節には、とても象徴的な言葉が記されています。
「主は、彼のうしろの戸を閉ざされた」(創7・16)
 戸というのは一番浸水しやすい場所です。また、中から扉を閉めることは難しいですね。ロープを付けて引っ張るなど、不可能ではないけれども、外から誰かに閉じてもらった方が確実です。神様は、一番浸水しやすい戸を外側からしっかりと、御手をもって閉ざしてくださいました。ノアたちが大洪水から救われるためにです。「救い」は、神様の御手によるのだということをここから知ることができます。
 そして、この大洪水をもたらした雨は、四十日四十夜降り続きました。水かさは増し、雨がやんだ後も百五十日間、水は増え続けていったのです。すべてが水に覆われてしまいました。その後、次第に水が減り始めました。水が減り始めてちょうど四十日が経ったとき、ノアは箱船の窓を開き、カラスを放ちましたが、出たり戻ったりしているだけでした。しばらすると今度は鳩を放ってみましたが、鳩は、足を休める場所を見つけられずに戻ってきてしまいました。それから七日待って、また鳩を放つと、鳩は、むしり取ったばかりのオリーブの若葉をくわえて戻ってきたのです。そして、それから七日後にまた鳩を放つと、もうその鳩は戻ってきませんでした。ようやく地が乾きはじめ、ノアたちが箱舟から出られるようになるまでに、なんと丸一年が経っていました。ノアたちの長い長い箱舟生活がやっと終わったのです。
 創世記8章17節で、神様は、ノアたちにこう命ぜられました。
「あなたといっしょにいるすべての肉なるものの生き物、すなわち鳥や家畜や地をはうすべてのものを、あなたといっしょに連れ出しなさい。それらが地に群がり、地の上で生み、そしてふえるようにしなさい」
 これは、すべての再スタートです。神様は、彼らにもう一度、この自然を管理し、豊かにしていくようにと命じられたのです。そして、箱船をでたノアの家族が最初に行ったことは何だったでしょうか。礼拝でした。祭壇を築いて神様に全焼のいけにえをささげたのです。
 よく聖書に「全焼のいけにえ」が出て来ます。これは、すべてを焼き尽くして煙にするささげ物です。煙は上に上っていきますから、これは「すべてを神様にささげます」という献身の表明であり、「すべてをあなたに委ねて生きていきます」と言う信仰の表明でもありました。また、大洪水から救われたことへの感謝と賛美の表明でもあったのです。すべての再スタートは、神様に感謝の礼拝をささげるということから始まったのです。
 
3 神様の契約
 
 最後に神様は、ノアたちを祝福し、大切な契約を与えてくださいました。創世記9章11節にはこう書かれています。
 
「すべて肉なるものは、もはや大洪水の水では断ち切られない。もはや大洪水が地を滅ぼすようなことはない」(創9・11)
 
 @大洪水で滅ぼすことはない
 
 神様は、もう大洪水で滅ぼすことはしないと約束されました。別の言い方をすれば、「大洪水では、人の罪の問題は解決しない」ということです。大洪水の後に、地上に残ったのはノアとその家族だけでした。ノアは、神と共に歩んだ人でしたが、ノアであっても全く罪のない完全な人というわけではありませんでした。アダムの罪の性質を受け継ぐ一人でした。その子孫たちも、やはり、神様にそむき、神様から離れていくようになってしまいました。
 ですから、もし罪人をその罪の故に罰し滅ぼしたとしても、それをいくら繰り返しても、いつまでたっても根本的な罪の問題は解決せず、本当の救いはもたらされないのです。つまり、神様が「もはや大洪水で滅ぼすことはしない」とおっしゃるのは、「ただ人を罪のゆえに罰するだけでは、決して本当の救いは成就しない」ということを教えておられるのです。
 
 Aイエス・キリストによる救い
 
 でも、その一方で神様は、私たち人間の罪の問題を根本的に解決する救いの道を備えてくださいました。それは、イエス・キリストを信じて救われるという道です。イエス様は、私たちのすべての罪を背負い、私たちの身代わりに十字架についてさばきを受けてくださり、私たちの罪の問題を解決してくださいました。また、三日目によみがえることによって、私たちに神様と共に生きる新しいいのちを与えてくださったのです。私たちはそのイエス・キリストの十字架と復活を信じることによって、罪赦され、神様との麗しい関係を回復し、永遠のいのちをもって、主とともに生きることができる、つまり、本当の救いを得ることができるのです。
 「ノアの箱舟」の出来事は、そのひな形です。ノアは、神様の言葉を信頼して箱舟に乗り大洪水から救われましたが、私たちは神様の言葉を信頼してイエス・キリストを信じることにより滅びから救われるのです。つまり、神様の「わたしはあなたを滅ぼさない」という約束は、イエス・キリストによって完全に成就されることになったのです。
 
 創世記9章12節ー13節で、神様はノアたちにこう仰せられました。「わたしとあなたがた、およびあなたがたといっしょにいるすべての生き物との間に、わたしが代々永遠にわたって結ぶ契約のしるしは、これである。わたしは雲の中に、わたしの虹を立てる。それはわたしと地との間の契約のしるしとなる。」
 私たちは、空に「虹」を見るとき、神様の約束を思い起こすことができます。「もう洪水や自然災害によって滅ぼすことはない」そして、「イエス・キリストを信じることで、信じる者が永遠の救いを得ることができる。」ただ、イエス様によって、私たちの人生に救いが与えられている、その恵みを覚えつつ、この週も歩んでまいりましょう。